地質調査を効果的に実施するためのご提案

2002年の骨太方針にはじまる構造改革は、「官から民へ」、「国から地方へ」をスローガンとして改革が進められてきました。一方で公共事業の削減と入札制度改革に伴う建設業界の疲弊と混乱は周知の事実であります。
こうした影響は、地方において特に顕著であります。本来、構造改革は地方を元気にするはずであったはずですが、現実は受注量の減少とダンピング受注の横行を招き、各社の技術者のリストラと経営状況の悪化が続いております。
複雑な日本列島の地質構造は、リスクそのものであります。近年は地球温暖化の影響に伴う大雨による土砂災害により毎年多くの尊い人命が失われています。そのような国土であるがために、土木・建築構造物を計画し、建設し、維持管理していく上で、的確な地質調査が実施されることが必要であります。地質調査は、特に地域に根ざした産業であり、建設事業全体に関わる重要な業種であります。地質調査を効果的に実施することで、地域の活性化に貢献すべく、地質調査の専門業者団体として活動を展開してまいります。
(社)全国地質調査業協会連合会(以下全地連と略称する)では、発注者の皆様に地質調査の役割の重要性をご理解いただき、どのようにすれば地質調査業者を有効に活用し、また、どのようにすれば質の高い地質調査結果を得ることが出来るかについて検討してまいりました。
こうした成果をベースに、この度、全地連“地域活性化委員会”として本提案を整理いたしました。
是非、ご趣旨をご理解賜わり、地質調査発注の実務に反映していただきますようお願いする次第であります。
なお、併せて今後の業界としての“行動指針”についても方向性を示しておりますのでご高覧いただければと存じます。

一般社団法人 全国地質調査業協会連合会
関東地質調査業協会 栃木県支部
栃木県地質調査業協会

ご提案内容

地質調査技術の有効活用

提言1:地質調査技術者の計画・設計・施工段階への参画の促進
①コスト構造の見直しに貢献するため、地質調査技術者の計画段階からの参画
②安全管理、コスト管理を適切に行うため、地質調査技術者の施工段階への参画
③より効率的な地質調査を実施するため、契約後の受託者提案制度の活用
提言2:地元の地質調査技術者の有効活用
①地質構造は、それぞれ地域特性を持っています。そのため、その地域の地盤状況に精通した地質調査技術者の選定と活用が必須となります。

地質調査の適切な発注

提言3:地域要件を含む企業評価方式や業者選定方式での発注
①地域に密着した恒常的業務については、地域の業者を対象にした取扱い
②地域精通度を考慮した業務評価をもととした発注方式の導入
③低入札を牽制する制度の導入
④防災協定に基づく災害対応や地域の社会貢献活動に対する評価制度の導入
提言4:測量・設計と分離した発注
①専門技術の評価と技術の相互けん制という視点からの分離発注の必要性
提言5:研究開発業務における随意契約方式による発注
①地質調査業の特性から大学、研究機関等との合同研究を行う機会が多くあり、研究の成果をとりまとめる業務等の取扱い方法の検討が望まれます。

適格業者の有効活用

提言6:国土交通省「地質調査業者登録規程」による登録業者の有効活用
①本規程では、技術者の確保(常勤専任の技術管理者と現場管理者の設置)と経済的要件の確保が義務づけられています。
②平成21年度国土交通省「建設関連業検討会」では、国においては、地方公共団体や民間等に対し、登録制度の意義や役割等について積極的にPRしていくこととし、登録制度の認知度の向上を図っていくことが確認されました。
提言7:地質調査関連技術者資格の活用
①地質調査技士資格者の活用
地質調査は、通常は目に見えない領域の情報を扱う仕事であります。現場において地盤情報を得るための技術(ボーリングマシン等を使い、的確な孔を掘り、取り出したサンプルを処理し判断を行います。)を持った専門技術者が必要となります。
②地質情報管理士資格者の活用
国土交通省が導入したCALS/ECにより地質調査成果品の電子納品が地方自治体へも波及しています。本資格制度は、複雑な電子納品作業を管理するためのものであり、後世に残る地質調査成果品の品質確保に重要な役割を担っています。

協会員事業所の活用

提言8:市場の要望に応える活動や市民レベルへの啓蒙活動を支援する協会員事業所の評価と活用
①全地連、各地区協会、各県協会では、技術者の教育・訓練、新技術の開発、地質調査技術の向上のための事業活動に積極的に取り組んでいます。
②複雑な日本列島の地質を広く市民の方々に知っていただけるよう、市民対象のイベントに参加し、関連パンフレットを配布する活動を行っています。
⇒これらの事業活動は、会員事業所の経験豊かな専門技術者の積極的な参加により実現できるものです。高い倫理観と高度な技術を持って住宅・社会資本整備に貢献している会員事業所の一層の評価と活用をお願いいたします。

地質調査業者としての行動指針

地質調査の専門業者の協会団体として、地域活性につながる有効な活動を行う指針として以下を提示し、協会員全事業所および全技術者一丸となって目標に向かい前進することとします。

1・情報発信を積極的に行います。

(1)発注機関へ向けて
地質調査を発注する側において、地質調査が地味で目立たない仕事であり、その役割の重要性と建設事業におけるトータルコスト削減に大きく影響することが十分に理解されていない面があります。そうしたことから発注者に対する技術説明会等を積極的に開催し、理解を得ることを目的とした活動を展開します。
(2)一般市民に向けて
複雑な日本列島の地質構造を分かりやすく説明し、まずは足元の地質を理解いただくことで、国民の財産を守る上での地質調査の重要性を訴える活動を展開します。
(3)小学生から大学生に向けて
セミナー、見学会等を通じ、次の時代を担う若者に焦点を当てたPR活動を展開します。

2・社会貢献に繋がる活動を積極的に行います。

(1)ジオパーク活動への協力を行います。
大規模な火山や化石産地、断層帯など、地球科学の貴重な遺産を国際的に認定する「世界ジオパーク(大地の公園)」への登録を目指し、平成21年度には、洞爺湖有珠山(北海道)、糸魚川(新潟)、島原半島(長崎)の3つの地域が、日本で初めて選定されました。こうしたジオパークの活動について地質の専門家として積極的に協力します。
(2)防災協定に基づき、緊急時の対応に備えます。
(3)低炭素社会に対応するために、地下水や地熱の有効活用を図り、環境にやさしい資源利用をするための積極的な支援活動を推進します。
(4)地域において、産学官の連携を図り、地域再生に積極的に貢献します。

3・技術の伝承に努めます。

(1)特にボーリング技術を中心として、現場の技術者の育成と技術の伝承を確保するための教育活動を行います。
(2)技術者の表彰制度等を通じて、現場技術に焦点を当てるとともに、業務発注の仕組みに取り入れていただけるよう活動を行います。

4・地質技術の維持・向上および地質技術者の確保に努めます。

(1)倫理綱領に基づいて行動し、地質技術の維持・向上を図ります。
(2)優秀な技術者の育成と確保には、しっかりした経営基盤が必要であります。また、これには、各会員事業所の技術力に対する発注者側のご理解が必要と考えます。

5・協会活動を円滑かつ活発に展開します。

(1)会員相互の信頼をもととし「和」の精神を以って活動します。
(2)企業の相互の存続のためにも協会活動を活発に実施します。
(3)技術者の連携の強化に努めます。
(4)全地連、各地区協会、各県協会が一体となった活動を展開します。

倫理綱領

私たち社団法人全国地質調査業協会連合会に所属する会員企業は,地質調査業が地質,土質,地盤,地下水など,主として地中の不可視なるものを対象とし,かつ,技術情報という無体物を成果品とする知識産業であることを自覚し,優れた専門技術をもって,顧客の要望に応えるとともに,地質調査業の職業上の地位並びに社会的な評価の向上に努めます。このため,私たちは,次の諸事項を行動の指針といたします。

1・社会的な責任を果たすために

1) 社会的使命の達成
私たちは,業務を誠実に実施することにより,国土の保全と調和ある開発に寄与し,その社会的使命を果たします。
2) 法令等の遵守
私たちは,業務に適用される全ての法令とその精神を守り,透明で公正な行動をとります。
3) 環境の保全
私たちは,自然に深く係わる立場を自覚し,環境との調和を考え,その保全に努めます。

2・顧客の信頼に応えるために

1)良質な成果品の提供
私たちは,顧客のニーズと調査の目的をよく理解し,信義をもって業務にあたり,正確で的確に表現された技術情報を提供します。
2)中立・独立性の堅持
私たちは,建設コンサルタントの一翼を担っていることを自覚し,業務に関する他からの一切の干渉を排除し,中立で公正な判断ができる独立した立場を堅持します。
3)秘匿事項の保護
私たちは,顧客の利益を守るため,業務の遂行中に知り得た秘匿事項を積極的に保護します。

3・業の地位向上を図るために

1)自己責任原則の徹底
私たちは,常に自己を高めることに努め,自らの技術や行動に関しては,自己責任原則の徹底をはかります。
2)技術の向上
私たちは,不断に専門技術の研究と新技術の開発に努め,技術的確信と熱意をもって業務に取り組みます。
3)個人並びに職業上の尊厳の保持
私たちは,自らの尊厳と自らの職業に誇りと矜持を持って行動するとともに,業務にかかわる他の人々の名誉を尊重します。

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